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フランス、パリで日本料理の調理技能の認定講習を実施しました | Certification of Cooking Skills for Japanese Cuisine in Foreign Countries

パリで料理人を目指す若者に日本料理を教える

世界の日本食ブームが起きてから、時は流れ、もはやブームの段階を超えて、世界中で日本料理は定着しつつある。

 

昔は「外国人には出汁の味はわからない」なんて言われたが、筆者の暮らすフランスでは、いまでは『旨味 (Umami)』という言葉が、料理人だけでなく一般市民にも浸透している。

世界の中でも美食家で、美味しいものに目がないフランス人達から文化の垣根を超えて受け入れられ、愛されるには「美味しい」という理由だけで十分だ。

 

そんな美食の国フランスの首都パリで、昨年11月、我々は日本料理の技術講座(農林水産省認定のブロンズメダル認定講座)を実施した。場所はパリ6区、フェランディ調理師学校だ。

 

日本料理とはなんであるか、料理人を目指す若者達22人を生徒に実施した授業である。

日本料理の歴史、文化のほか、生魚を多く使う日本料理には不可欠な衛生に関する講義と実技を含む授業で、農林水産省が定める、メダル認定講座のガイドラインに沿った内容で行われた。

 

講習後に生徒達が受け取ったブロンズ認定書とブロンズメダル
講習後に生徒達が受け取ったブロンズ認定書とブロンズメダル

今回実技で行なった内容は以下の通り。

・きゅうりのじゃばら切り

・親子丼

・天ぷら

・寿司

 

料理人を志し、普段から料理をしているはずの生徒たちだったが、いつもと違う技術を求められて、上手くいかず戸惑う様子もちらほら。しかし中にはこちらが驚かされるほど優秀な生徒もいた。美味しいものを作る技術やセンスは、文化や国を問わず共通なのかもしれない。

 

彼らは日本料理のシェフを志しているわけではなかったが、料理人を志しているだけあって料理への関心は深く、全員寿司と天ぷらは食べた経験があった。そんな彼らでさえ、例えば、天ぷらの衣の材料は知らなかったし、衣自体には味をつけないことにも驚いていた。寿司のように生魚をそのまま食べる場合の衛生上の注意などは、フレンチだけを学んでいては習得できないだろう。

ズッキーニの花の天ぷらの実演
ズッキーニの花の天ぷらの実演

彼らが今回の講習で得たものはブロンズメダルの調理技能だけでなく、全く新しいヒントの種だ。今後の彼らの料理人としての仕事の中でいつか芽を出すだろう。

海外で日本料理の調理技能を認定する意義

せっかくの日本食ブームだが、実際に世界で「日本食」として提供されている料理は、私達日本人からすれば全く受け入れがたいものも少なくない。

 

例えば、パリは確かに世界有数の美食の街で、日本で修行した日本人の料理人も多く活躍し、食通のパリジャン達を喜ばせている。しかしパリから一歩郊外に出れば、その状況は一変する。

 

筆者は以前、パリ郊外で開催された日本文化を紹介するイベントで寿司のケータリングを食べたことがあるが、あんなに美味しくない寿司は食べたことがない。


それはその地域の市役所も参画したイベントだった。

茶道、書道、水墨画などのほか、日本のアニメやグラフィックの技術を紹介する、しかもそれぞれの分野の日本人講師を招待しており、なかなか真面目な内容だったのだが、フード部門はどうやらその範疇に入らなかったらしい。

 

ちなみにどんな寿司だったかというと。

固く握り締められた大きめのシャリに、ごく薄く切られたしょっぱいサーモンが乗せられたにぎり寿司。

そして赤身の鮪の細巻き寿司はちょっと生臭い。さらに、サーモン寿司のシャリには芯が残っていた。醤油も、真っ黒で少しどろっとした液体だった。

人生で初めて寿司を握る生徒たちの熱心な姿
人生で初めて寿司を握る生徒たちの熱心な姿
手本として講師が作った鮪の握り 。あの寿司を作ったシェフにもこの講習を受けてもらいたい。
手本として講師が作った鮪の握り 。あの寿司を作ったシェフにもこの講習を受けてもらいたい。

私達日本人や、日本通の外国人なら、こんなものは本当の寿司ではないとすぐわかる。しかしもしこの寿司が、日本に興味を持ったばかりの外国人の、人生で初めての寿司だったら?

「日本料理って美味しくない」

と思われてしまったら、せっかく日本へ向いた興味も薄れてしまうだろう。

 

特にフランス人の食にかける情熱は凄まじい。そして一度付いたマイナスのイメージを払拭するのは難しい。

 

このような経験もあり、この度農林水産省が制定した、日本料理の調理技能の認定制度は個人的に喜ばしいものであった。

 

農林水産省が発表した「日本料理の調理技能の認定に関するガイドライン」の要旨で触れている世界における日本料理の現状は、私がまさに体験した内容である。

(農林水産省ホームページ 海外における日本料理の調理技能認定制度)

 

日本料理の調理技能を認定する講習がもっと普及し、また多くの料理人がそれに参加できるよう整えられれば、このようなショッキングな日本料理は減っていくだろう。


世界中どこででも、安全で、美味しい本当の日本料理が、ブームを超えて定着するための確実な第一歩を踏み出したことを実感している。

執筆者:古賀めぐみ フランス・パリ在住、日本料理文化交流協会、調理実習通訳者